フッ化水素酸は毒性が強い一方で、洗浄などで工業的によく使用されている薬品です。
製造業の方で取り扱う方も結構おられると思い、この記事では、フッ化水素酸を取り扱う上での注意事項や万が一の時の備えについてお伝えします。
目次
フッ化水素酸について
物性
フッ化水素酸は、フッ化水素(化学式:HF)の水溶液で「フッ化水素酸」又は「フッ酸」と呼ばれる化合物です。
弱酸ではあるものの硫酸などより腐食性が強く、多くの金属の他にガラスをも溶かしてしまいます。
なので保管にはガラス瓶は使用できずに一般にはポリエチレン容器が使用されますが、それでもベストとはいえません。
最適な保管容器は同じフッ素でできているテフロン容器です。
毒性
フッ化水素酸は、皮膚に付着するとその酸性と腐食性によって化学損傷を引き起こします。その間に体内に速やかに吸収されて血流にのります。
フッ化水素酸はカルシウムイオンやマグネシウムイオンと結合しやすく、血流や骨にあるカルシウムイオンを奪ってしまいます。
その結果、ひどい低カルシウム血症となって筋肉が動かなくなることで致死性の不整脈※を引き起こし、最悪の場合は死に至らしめる可能性があります。
※心臓の筋肉を動かすにはカルシウムイオンが必要
医療機関での治療方法
まず皮膚にフッ化水素酸が残らないよう十分に洗い流します。
次に血中カルシウム濃度を確認しながら、必要に応じてカルシウム製剤の投与を行います。
また、その際に他の症状があればその治療も同時に行います。
職場での応急処置について
必要な物
フッ化水素酸を取り扱う職場では、万が一の事故に備えて、以下の2点を実施しておくと安心です。
- グルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)を準備し、フッ化水素酸を使用する作業場の近くに設置する
- フッ化水素酸が付着する事故が発生した場合の本人や周りの人の動き(事故時の処置手順)を定める
応急処置方法
フッ化水素酸が皮膚に付着する事故が発生した場合は、すぐに大量の水で10分以上洗い流してください。
次に救急車を呼び医療機関を受診する手配をします。
同時に少しでも体内吸収量を少なくするため、事前に作業場に準備しているグルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)を皮膚にすりこんで外部からカルシウムを補います。
この作業は救急車が来るまでずっと続けてください。
救急車が来たら後は救急隊員のお任せしましょう。
労災になるので上司も一緒に救急車に乗って病院にいくと良いかもしれません。
グルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)の準備
日本では「グルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)」としての商品は発売されていませんので、以下3つの方法のいずれかの方法で自分らで準備しかありません。
- フッ化水素酸の仕入先から入手する
- グルコン酸カルシウムと潤滑ゼリーとを混合する
- グルコン酸カルシウムの注射剤(商品名:カルチコール)と潤滑ゼリーとを混合する
それぞれもう少し詳しく解説します。
フッ化水素酸の仕入先から入手する
フッ化水素酸の購入元・仕入先によっては、グルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)を用意している場合があります。
フッ化水素酸の購入と共に配布してることがあるので、まずはそちらに確認してみてください。
グルコン酸カルシウムと潤滑ゼリーとを混合する
粉末のグルコン酸カルシウムを潤滑ゼリーと混ぜて作成する方法もあります。
グルコン酸カルシウムと潤滑ゼリーを直接混ぜても溶けがよくありませんので、グルコン酸カルシウムを水で少し溶かしておいてからゼリーを混ぜるといいでしょう。
いずれにしても混ぜ合わせるのに根気が必要です。
グルコン酸カルシウムは、薬局で食品添加物としての商品が売っていますし、工業用の試薬としても購入できます。
薬局で在庫がなければ取り寄せてもらうよう依頼してください。
なお、日本中毒情報センターによると応急処置用としてグルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)を機能させるためには、2.5%の濃度が必要です。
これは、グルコン酸カルシウム3.5gとゼリー150gに相当します。
先に水でグルコン酸カルシウムを溶かす手法を取るなら、水の量に合わせてグルコン酸カルシウムを少し多めにすることをお忘れなく。
グルコン酸カルシウムの注射剤(商品名:カルチコール)と潤滑ゼリーとを混合する
社内に診療所を開設している企業では、注射剤のグルコン酸カルシウムである「カルチコール」が購入できます。
こちらは液体ですので、潤滑ゼリーとすぐに混合できて作成が便利です。
カルチコール注射液8.5%5mLを6本を全量100gになる量の潤滑ゼリーを混ぜれば完成です。
まとめ
フッ化水素酸は工業的によく使用される薬品です。
しかし、非常に毒性が強く量によっては低カルシウム血症で死に至らしめる可能性がある薬品です。
従って、職場では事故に備えた手順を整えておくこととカルシウムを補うグルコン酸カルシウムゼリー(軟膏)を常設しておかなければいけません。
自ら調整する場合は、濃度が2.5%になるように調整をしましょう。
参考ですが、シアン中毒に対する企業がとるべき対策もまとめた記事もありますので、シアン化物を使う(特にメッキ処理)職場では併せてご確認ください。
かつてグルコン酸カルシウムゼリーを販売する薬品会社で仕事をしていました。
その会社からある製薬会社に依頼して製造して多くはフッ化水素酸の販売会社に販売していました。
フッ化水素酸と一緒に購入してくれる企業も結構ありました。
ただし、医薬品では無く試薬としての販売で結構グレーな部分ではあるんですけどね。
読んでて懐かしくなってきましたのでひと言。
たけぴょんさん
コメントありがとうございます!
噂には聞いてましたが、フッ化水素酸と一緒に販売していることもあるんですね。
私達が調製しなくてもいいように一般に販売されるといいんですがね。
貴重な記事をありがとうございました! 当方、薬局に勤務するものですが、先日まさに産業医をしているドクターから、グルコン酸Caゲルを作成してほしいと依頼があり、初めてのことだったので調べたら、こちらのサイトに行き当たりました。情報が少ない中で、こちらのサイトは作り方などを詳しく書いてくださり、非常に助かりました。
実際の作成は、カルチコール®注射液を使い、KYゼリーではなく『リューブゼリー®』を使用しましたが、これはうまくいきませんでした。ゼリーに注射液を入れると、白濁したゴムの塊のような析出物が出てきてしまったのです。検証はできませんでしたが、おそらくリューブゼリーの添加物の成分がカルチコールと反応して架橋のようなものを作ってしまうのかな、と推測しました。
リューブゼリーを基剤とすることは諦め、カルチコール注射液に、水に溶いたとろみ剤(デキストリン)を加えることによってゲル状にすることとしました。
かなり固めのとろみにしたので、性状はゲルにかなり近くなりました。とりあえずそれで納品としましたが、果たしてこれで何の問題もないのか、若干不安ではあります。もし差し支えなければ、とろみ剤を使うことによって想定される問題や、その解決方法などもお教えいただければ幸いです。
ヘタレ薬剤師さん
コメントありがとうございます。
とろみ剤を加えることによる懸念事項については、申し訳ないのですが、知見がなく分かりかねますが、水で溶いて作成されているので、カビの発生が気になるところです。
高温多湿を避けた保管をしっかりとすること、定期的な外観確認をおすすめします。また、長くても1年くらいで交換した方が良いかと思いました。(1年の根拠はないのでどのくらい持ちそうか確認しながら決めてください)
あと、ゼリーについて、日本中毒センターではKYゼリーでの作成を提示していますが、実は当方では「ヌルゼリー」で作成してます。ヌルゼリーだとカルチコールと混ぜても塊はできません。ブログで紹介しておらず申し訳ございません…。ヌルゼリーは医薬品卸から購入可能です。
下記URLは画像の参考です(この薬局から購入しているものではありません)
ヌルゼリーの画像
https://www.natural-pharmacy.jp/jp/item/detail?item_prefix=TF&item_code=181104&item_branch=001