薬剤師が製薬会社(開発・研究・MR)で働く|特徴や概要・年収・福利厚生・就職転職の秘訣

私は薬学部が4年制だった頃の薬剤師で、大学卒業後は大学院へと進学して最初に勤めたのが製薬会社での開発職です。

開発職は「化合物」から「医薬品」に昇華させる製薬会社の肝とも言える仕事であり、とにかく人気がある仕事です。

時は超氷河期、失われた10年とも言われる時代の修士1年だった頃(今で言えば5年生)に研究はそっちのけで、めちゃくちゃ就職活動をしたのを覚えています。

開発職での採用活動を一切行っていない会社も多く、行っていても東大や京大などの上位大学にしか声をかけていない会社(特に国内製薬会社)もたくさんあったため、開発職の採用を公表をしていたファイザーやアストラゼネカなどの外資系には応募が殺到していました。

そのような状況で、コネも脳ミソもない薬学部の私が大手製薬会社の開発職として内定を勝ち取ることができました。多分ですが倍率500倍から1000倍はあったと思います。

そこでこの記事では、これから就職活動を迎える薬学生の皆さんに向けて、圧倒的な買い手市場の中でも人気職種に就職できたその秘訣を紹介したいと思います。

もちろん転職の時にも使えますし、MRや研究職でも活用可能です。

また、MRや研究職の同期から聞いた話も織りまぜながら実際に働いて分かった製薬会社の特徴、年収や待遇、ワークライフバランスも紹介します。

なお、製薬会社以外にも薬剤師の就職先を紹介した記事がありますので良ければ参考にしてください。

まずは開発職の仕事をざっくり紹介

開発職は「治験(ちけん)」の企画、運営、データ解析を行い、厚生労働省へ医薬品候補の化合物を正式な医薬品として認めてもらえるようにする仕事です。

治験自体は医師が行うため病院を定期訪問する外勤部門、治験の実施方法などを企画する内勤部門をメインに統計、監査、安全性、薬事などの部門で構成されます。

大学で統計やデータ解析を学んでいない限りは、新卒時は基本的に外勤又は内勤部門に配属されます。

内勤部門では治験の実施計画を作成することから承認申請資料の作成まで治験に関わる様々な企画と文書の作成を担当します。

日本で薬の販売承認を得るために治験を行う必要があるので、資本の国内外を問わず開発部門は日本に存在しますが、外資系企業では、海外での治験の実施方法を外国本社から強要されることもあり、真の意味で実施計画を作成するとは言えない場合もあります。

世界最先端の治験に関われる反面、フラストレーションがたまるかもしれませんね。

そうして意味では国内系の会社の方が働きやすいでしょう

一方、私が勤めていた頃の外勤部門では、多いときはほぼ毎日出張して北海道から沖縄まで日本全国の病院を訪問して、治験の依頼をしたり治験データの収集やそのデータとカルテとを照合をしたりすることがメインの業務です。

とにかく出張が多くて、非常に体力が必要な職種でした。

実際に私も東京 ⇒ 仙台 ⇒ 札幌 ⇒ 福岡 ⇒東京を1泊2日で回ってきたこともありました。

しかし近年では、治験の運営を外部委託する機会が多く製薬会社の開発職としての仕事ぶりは様変わりしています。きちんと運営されているかのマネージメント力が必要になっています。

さらにネットワーク環境が整っていることもあって、治験データもわざわざ病院に行かなくても電子的に受信できるようにもなっています。

時代の変化に対応できる順応力も必要です。

人気の開発職に就職するための採用試験対策とその秘訣

まずは開発職の就職活動がどのようなものかを知っておこう

開発職は、募集人員が少ないために非常に狭き門です。

さらに会社によっては、極めて高い学歴フィルターを持つことも。

私が就職活動をした際にはネットがそれほど発達していませんでしたから片っ端から製薬会社に電話して募集の有無を確認していたのですが、その内の国内の製薬会社のいくつかからは募集は無いと言われたにも関わらず、就職した後に同期がいたことが分かって愕然としたことがあります。

もちろん彼らは、東大や京大などの上位校ばかりです。

応募は6年制卒業、大学院修了者のみだとか、TOEIC○○点以上が必要などの要件があるため、希望する会社の募集要件は下調べしておく必要があります。

例えば国内最大手の武田薬品ではTOEIC730点が必要なようです。(こちら参照

適正検査対策が内定をもらうための第一歩

なにがなんでも怠ってはいけないのが「適正検査」

応募が多い開発職では、効率よくふるい落とし・足きりに使えるめちゃくちゃ便利なツールだからです。

採用担当者の人数って想像しているより少ないんです。

効率よく採用活動をするためには、時間をかけずに面接に進める応募者を絞り込む必要があります。

たがか適性検査ですが、されど適正検査。適正検査の成績がいい人は昇進昇格のスピードが早いと分析していた会社もあるほどです。

今ではインターネットで受けたい会社が過去ではどのような試験の傾向であったかが分かると思いますので、調査したうえで必要な本を購入してしっかりと勉強するようにしましょう。

同じ理由で履歴書やエントリーシートでは、極めて簡潔に分かりやすい文章にする必要があります。じっくりと読まないと文意が分からないものはダメ。

他の人に読んでもらい分かりやすさを追求してください。

また全体的な印象も案外重要。

例えば顔写真では顔が良いとか悪いとかではなくて、ぱっと見て暗い印象の場合は不利となりやすいですし、手書き履歴書の場合は字が汚い(乱雑でなければいい)と印象が良くありません。

開発職で内定をもらうための面接の秘訣

面接で話す内容は、結果のすごさよりもその結果を導き出したプロセスや考え方を重視した回答が出来るように準備が必要です。

特にグループ面接では、留学に行っただとか、部活の主将をやっていただとか「スゴイなぁ」と思う経歴を言う人が絶対にいます気後れする必要はありません。

そのような結果よりもプロセスが重要です。

留学はどのような考えで何を求めて行ったのか、何をやってきたのか、部活の主将をやってどうしたのか、どのような工夫があったのかというプロセス。

面接で答える内容としては留学や主将など凄そうなことで結果をアピールする必要はなく、普通にバイトやサークルでの活動で十分で、その回答内容に意味を持たせることが必要です。

これを行う秘訣を一つ伝授しましょう。

トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」の中には「なぜなぜ分析」というのがあります。通常は労働災害が発生した時の真の原因を探るための分析に使用する方法です。

起こった問題に対して、なぜそれが起こったのかを考えます。その回答に対してなぜそのようなことになったのかを考える。それを5回繰り返すと真の原因が導き出されるというものです。

「風が吹けば桶屋が儲かる」の説明が全部できるようにするみたいなイメージです。桶屋が儲かっているのはなぜか ⇒ ・・・・⇒風が強い(真の原因)

面接で回答した内容に対する質問を5回繰り返されても(深堀りされても)回答できるようにしておくことが必要です。留学に行ったということであってもその行動に意味がなければなりません。

当たり前ですが働く上では意味をもって行動できる人材が求められます。

限られた人員・予算・時間の中で最大の成果を上げられるよう論理的に仕事が進められる人材が必要なんです。闇雲に・意味なく仕事する人なんていりません。

「なぜなぜ分析」がどうして必要なのかが分かるオススメの面接対策本があります。

それは「コンピテンシー面接マニュアル」

ここで紹介したのと同じようなことが書かれていますから、この本を読んで面接に必要対策を学んだ上で自分自身の棚卸を行うことが重要です。

想定質問に対して5回深堀りされても大丈夫なように回答を作っておけば、どんな質問がきても準備してきた回答の中から答えられるはずです。

面接でまず聞かれる「なぜ大学院に進学したのか」、「なぜ開発職なのか」、「なぜ研究職ではいけないのか」は必ずしっかり作りこんだ回答を用意しておくようにしましょう。

開発職へ転職するための秘訣

開発職は転職もかなり狭い門ですが、同業者であれば案外すんなりと行きます。

むしろそういう人が多すぎて、全く偶然に知り合いと同じ会社で勤めていたなんていう話はよく聞きます。

一方、業界未経験者の場合は事情が異なります。

他の業種の研究部門で実績のある方であれば研究部門への転職は可能だと思いますが、開発職への転職は全く無いことはありませんが難しいと言わざるをえないでしょう。

この仕事は医薬品か医療機器しかありませんから。

また病院や薬局の薬剤師がいきなり製薬会社の開発部門に転職するのも基本的には困難

治験を委託する外部機関(CROやSMO:この記事で紹介中)なら転職は問題なくできるので、一旦そこに転職して実績を積んだ上で製薬会社への転職をチャレンジするのが近道です。

いずれにおいても転職サイト経由が早いでしょう。大手になればなるほど大手の転職会社しか利用しませんから有名どころに片っ端から登録することをおススメします。

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面接対策はもちろん新卒の方と同じように「コンピテンシー面接マニュアル」の内容を網羅できるよう準備をしよう。

開発職の年収や待遇

社内の職務等級・レベルが同じであれば、基本的にはMRも研究開発職も給料は同じである会社が多いとは思いますが、MRの方が売上げに対するインセンティブが大きいのと毎日の外勤手当てがあるためにMRの方が給料が高いことが多いです。

私が所属していた会社では職種を問わず給料テーブルは同じで、後は売上げや年度目標の達成度による査定から生じる個人能力の差だけでした。

ただ職務等級の上がるスピードはもしかすると異なるのかもしれません。

やはり開発職は製薬会社の要となるので、優秀な人材は評価されやすいでしょう。

いずれにおいても年収1,000万円は「普通」の世界であり、世間からしてみれば「勝ち組サラリーマン」であることは間違えありません。

福利厚生もかなり充実していますから生活水準のレベルは高いです。

知り合いで夫婦で製薬会社の研究開発職なんてパターンが結構いますが、年に何回でも海外旅行に行ったりとかなり優雅な生活をしていますよ。

開発職のワークライフバランス

担当する治験薬のプロジェクト進行状況で繁閑が激しいものがあり、繁忙期では毎日終電又はそれ以上ということも十分あります。

ですが、普段は休日も多く、有給休暇も取りやすいために家族と共に過ごす時間は十分あります。

給料が良いってこともあって、製薬会社ではオンもオフも充実して過ごせるはずです。

研究部門の仕事、年収・待遇、就職転職、ワークライフバランス

有機化学、薬物動態、安全性など分野ごとに分かれており、大学院時代の専門に応じた部門に配属されます。

業務内容は大学の研究室での内容とほぼ同様ですが、効率的な業務遂行がより一層求められます。大学の研究室と違って休日出勤や平日に深夜まで研究するということは余程の状況でなければないと思います。

キャリアパスとしては、他の専門分野への異動はあり得ませんが、研究開発の計画を立てる部署、臨床開発、知的財産などの研究関連の部署に異動する可能性は十分あり得ます。

外資系企業を中心に研究所を日本で持たない会社があります。また、現在研究所を保有してもいずれは閉鎖し全員解雇ということもあり得ます。

ファイザーとか万有製薬(現MSD)とかがそうでしたよね。

国内系の製薬会社でもいつM&Aがあるか分かりませんから、ほんの少しだけ不安定な要素を含みます。

年収や待遇、就職転職に関しては開発職と同じです。但し、研究職未経験者が製薬会社に転職できることは間違いなく困難でしょう。

就職転職の面接時に専門分野について聞かれることになりますが、面接をクリアする対策・秘訣は開発職と同じです。

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MRの仕事、年収・待遇、就職転職、ワークライフバランス

MRの仕事内容

MRとは「Medical Representative」の略で、日本語では「医療情報担当者」と言います。

平たく言えば製薬会社の営業マンのこと。

病院、診療所、調剤薬局を定期的に訪問し、医師や薬剤師などに自社製品の薬についての情報提供や宣伝を行います。

薬剤師どころか理系でなくともMRとして活動できますから、文系・理系を問わずに就職試験に応募する関係上、就職活動はかなり厳しいものがあります。

MRといえば以前は昼間の営業活動はそこそこに夜の接待漬けのイメージが強くて社会的貢献度が高い会社からは程遠い印象でした。

しかし外資系を中心に接待が少なくなりつつあるところに、2012年より業界の自主規制が厳しくなって今では他の業界と同じような水準に落ち着いており「世間並み」というのが表向きです。むしろやり過ぎなレベルまで少なくなっています。

経費削減の時代もあって昔ほどではありませんが、「転勤族」であることは間違えありません。北海道から沖縄までいつどこに異動になるのかが分からないという面があります。

しかしながら最近では自宅から通える範囲でのみの転勤しかないとか働き方の多様性は広がってきてます。

薬は基本的には医薬品卸を経由して販売しますから営業といっても薬自体を直接手にしたり価格交渉することはありません。医療機関への薬の納品や価格交渉は医薬品卸の仕事です。

薬の詳細情報や診療に役立つ情報を提供したり、時に医師と治療方法についてのディスカッションしたりと高い知識が要求されます。

売り上げを伸ばすためには医師や薬剤師のニーズの訴求製品知識及びその周辺の疾患などの知識が必要となります。

さらには売り上げが伸びない現状への問題点や課題抽出への分析力、打破する解決方法の企画力、それを実行に移せる行動力も必要となります。

製薬会社では新卒からいきなり人事や経理などの他の本社機能部署に配属になることは珍しいです。

まずはMRとして採用しておき出身学部やその後の適正を見て人事、経理、マーケティングなどに異動していく事例が多いです。

薬剤師で入社してもいずれは人事などに配属になるなんてケースもあり得ます。実際に私が入社した製薬会社の当時の人事部長は私と同じ大学・学部出身の薬剤師でした。

本当は経理などの他の仕事を行いたい場合でも一旦MRとして入社しておき、異動希望を出しながらそれを待つということになります。

早ければ3年程度で異動できるでしょう。まぁこれって入社時からあらかじめ決まっているのかもしれませんがね。

他には臨床開発といった研究的な部署にも異動が可能です。

私が勤めていた会社にもたくさんいました。新卒で開発職で入社する人よりも多いくらいでした。

MRのワークライフバランス

接待が横行していた時代は昼間よりも夜の活動の方が活発でとてもワークライフバランスがいいとは言えない状況でした。

昨今では残業抑制などもあり帰宅がそれほど遅くなることはありません。ただ、医師会や薬剤師会などの行事や勉強会を手伝うことも多くて夜間や休日の仕事も結構あります。

また大学病院の担当や大規模病院の主要医師の担当となると講演会や学会などへの同行などもあります。

ただし、会社としての年間休日はトップクラスで、土日祝日、ゴールデンウィーク、夏季休暇、年末年始休暇などフルで休みになるケースが多く、有給休暇もかなり取得しやすいです。

MRの年収・待遇

新卒時の給料は医療業界以外の他職種に比べて若干いい程度ですが、その後の昇給スピードはハンパありません。

薬剤師の中でも就職時は薬局やドラッグストアの薬剤師の足元にも及びませんが5年も経てば逆転してしまいます。

平均年収が1,000万円を超える会社もあり「勝ち組サラリーマン」となり得ます。ただ、外資系企業を中心に売り上げノルマが厳しくて賞与額の変動が大きい場合があります。

売り上げノルマを常に達成できるやり手の営業マンであれば収入は凄まじいことにもなり得るということです。

それに加えて福利厚生もかなり充実しているために給料も高いのですがそれにプラスしたメリットもたくさんあります。

逆にノルマを達成できない場合は、給料面でもペナルティがあります。とはいっても基本給が高いために不動産業界などと違ってそれほど大きなものはありません。(上司からの対人的な圧力はあるでしょうが)。

聞いた話だと武田薬品などでは「降格人事」も余裕であるようで、製薬会社も気の抜けない業界になりつつあるのかもしれません。

転職での就職

MRへの転職はとても活発です。

未経験者であっても採用される確率は高いと思います。ただ薬剤師を長く経験した後だと薬剤師での実績だけでは面接をクリアするのは難しいかもしれません。

開発職の項目で解説した秘訣をマスターできれば大丈夫だとは思いますが、薬剤師を経験した後にMRに転職したという話は聞いたことがありません。

この場合は「なぜMRなのか」への回答が最も重要で、納得できるものであれば合格できると思います。

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まとめ

製薬会社(開発職・研究職・MR)の仕事、給料、ワークライフバランスの特徴や就職・転職時の注意点を紹介しました。

製薬会社への就職はいずれの業種も狭き門で、まずは面接にたどり着けるように適正検査対策が必要です。その次に面接官をうならせるような回答が必要になるのですが、これは留学だとかスゴイ結果は不要です。

あくまで回答内容に意味があるか、行き当たりばったりで行動していないか、しっかりと現状分析ができ理想的な将来像に近づけるために何が必要かを把握した行動であるかを答えられるように「なぜなぜ分析」をして自分の棚卸をするようにしましょう。

しっかりと回答を作りこみ準備しておけば、どんな質問がきてもバッチリと答えられるはず。

そうして無事就職できた暁には、ワークライフバランスが良くて、世間の水準を大きく超える給料と福利厚生の恩恵を受けられます。

薬剤師として働き始めてから転職するのは難しいので、製薬会社で勤めたいのであれば学生時代から準備しておく必要があります。

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